笛の音色と共に…
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笛の音色と共に…
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その1「半音の半音の半音」
能管と何十管もの篠笛をひとつの袋にばさっと入れて、大切そうに胸に抱えて楽屋から出ていくのは歌舞伎や日本舞踊の笛の奏者である。

篠笛は、いろいろな音の高さのものをセットにして持ち歩き、唄と三味線がどんな音の高さで演奏しても、それに対応できるようにしていなければならない。フルートなどのように運指を変えれば何調でも演奏できるのではなく、調子が変われば笛を持ち替えるのだから、運指は変わらないので演奏はとても楽である。

もっとも単純な構造の笛であるために、この方法しか仕方がないとも言える。だが一方では、笛の種類さえ作れば、ピアノなどにはない中間の音でも容易に演奏できることになる。

篠笛の調子は、ハ長調とかヘ長調調というあらわし方ではなく、何本調子というあらわし方をしている。一本調子の笛の一の音は「G」で、二本調子、三本調子と半音ずつ高くなる。したがってハ長調の音は八本調子に当たる。この中で一本と二本は低すぎて篠笛らしくなくあまり使われないので、実際には三本調子から十三本調子の篠笛が使われている。したがって、十一管持てば十分のように思われるが、これではまにあわない場合が多い。

唄、三味線もこの何本調子で調弦して演奏するのだが、唄い手の声の調子で「少し下げてほしい」「少し上げてほしい」という要求で、四本半になったり五本半になったりする。そこで篠笛も半の音が必要になり、それを作ることになり笛の数が倍になってしまう。

その結果、半音の半音きざみのセット管を作ることになる。ところが、それ以上に微妙な音の上げ下げを要求されることもある。わずかに音を上げることを「カル」、わずかに音を下げることを「メル」と言っているが、したがって篠笛では半音の半音、そのまた半音きざみの四本メリとか六本カリなどの笛を作ることになる。

私も最近はプロ用のセット管を作る機会が多くなった。日本の笛、特に尺八などは音のメリカリができやすい歌口にしている。篠笛も同様で音の高さのゆれを得意とした笛であるから微妙なピッチはさほどの苦労ではないように思われるが、笛の表情を表そうとしたときには思いのほか気になってしまう。

高い調子の笛の間では自由がききやすくさほどのことではないが、特に低い音の笛、三本調子と四本調子の間ではかなりの苦労になってしまう。したがって三本調子と四本調子の間には、「三本カリ調子」「三本半調子」「四本メリ調子」の三管がどうしてもほしくなる。できれば四本調子と五本調子の間にも三管ほしいのだが、これはテクニックで補うとしても全体では最低二十管のセット管を持たなければならない。

注文を受けたセット管の中に、全体に半音の半音の半音の笛を作るというのがあった。これは四十管近くにもなるセットである。
山田 藍山
藍ノ会
MOVIES'「篠笛を吹く」